接待

 これで僕もやっと大人になれたのだろうか。或いはヤマト薬局を認めてもらえたのだろうか。  数日前に区長がふとやって来て、秋祭りのだんじりの接待をしてもらえないかと頼まれた。牛窓は昔港町で遊郭があったから、だんじりは女装した男が引く。化粧も分厚くして、色っぽいというより気持ちが悪い。漁師町でもあったから、気性が荒く、今でも酒を飲んだ、いや酒に飲まれた若者達が、うねりながらだんじりを引く。  薬局の前の駐車場兼花壇は、大きなだんじりが横付けして、数十人の引き手が一休みするにはうってつけだ。僕は二つ返事で引き受けた。嘗ては僕も酒に飲まれて交通法規を無視して、道路をふさぎながらだんじりを引いた人間だが、さすがに体力がなく引退してから、なんら町に貢献していないことが気になっていた。ひたすら仕事をし、休日にはまず牛窓にはいない。後ろめたさを救ってくれるまたとない誘いだった。  一体接待がどのようなものか知らなかったので区長に尋ねるとビールとするめくらいを用意しておいてくれたらいいということだった。ただ、それではわざわざヤマト薬局がする必要はない。色々と考えたが、何一つ実際に僕が出来るものはない。そこで娘に丸投げしたら、すぐに色々と考え手配してくれた。普段の伝手やインターネットを駆使して本当に手際良かった。色々そろえたが、中でも一番受けたのは、民宿青島さんに頼んだ地のエビのから揚げだろうか。子供達には妻が作ったケーキや有名店から取り寄せたクッキーなども受けたみたいだ。そして何よりも一番受けたのは、牛窓工場ではない他の工場からわざわざ2時間かけて手伝いに来てくれた二人のかの国の女性だろう。特に今日初めて会った方の女性は、工場で帽子をかぶり作業着を着て働いている人には見えなかった。一目見て目を見張った。まるで雑誌の表紙から飛び出してきたようなスタイルの女性だった。そして当然、かの国の女性特有の控えめさもあった。僕が176cmの身長だが、目の位置は明らかに向こうのほうが高かった。聞けば178cmだった。そしてそれが正にバランスが取れていて、素人目にも美しいと思った。僕は「国に帰って、モデルになったら」と冗談ではなく本気で言った。笑ってごまかしていたが、テレビに出てくる日本の馬鹿モデルたちよりはずっときれいで奥ゆかしい。もし彼女が日本人なら、モデルになれるだろう。  えてしてこんなものだが、ちょうど接待中に漢方薬の患者さんが続いて僕は全く外の様子が分からなかった。ただだんじりが再び東に向けて動き出した後娘が来て「何も残らなかった、むしろ足らないくらい」と嬉しそうに言った。酒飲み達があれだけのものをつまみにして食べたのかと驚いたのだ。嘗て僕が引っ張っていた頃、酒以外のものを口にするようなことはなかった。区長が「大和さん、こんなにしてくれたら癖になりそう!」と言ってくれた。癖どころか、もっともてなさないと普段のお返しにはなりえない。  小雨で寒かったが、こうした人間関係が築けている間、町が凍えるようなことはない。