底力

 何の偶然かわからないが、最近、若い癌の患者さんのお世話をする機会が急に増えた。癌の発症が低年齢化しているのか、昔から僕の薬局を利用してくれている人達のお子さんの発病だから僕を頼ってくれるのか、或いはその両方か。  病気の深刻さゆえに、お引き受けするのも覚悟がいる。最近、現代医学でもやっと免疫について認知されてきたが、僕はもう随分前から、そのための漢方薬を飲んでもらっていた。漢方薬のように多くの生薬の相乗作用では現代医学では正式な薬効としては認められずに、オプシーボのように単一成分でないと認められない。だが免疫と言うことでは、現代医学のほうが漢方薬を追っかけてきた感じだ。  お昼ごろあるお母さんから電話があった。病院から息子さんの報告を受けてすぐに結果を教えてくれたのだ。咽頭癌で放射線治療を受けたのだが、癌を宣告されてすぐにお母さんが飛んで来て、その日から煎じ薬を飲んでもらっている。放射線治療の副作用もほとんどでずに、咽喉科の先生が珍しいといってくれた。そして今日の最終的な検査で、がん細胞は見つからなかったらしい。母親の安堵の様子が痛いほど伝わってくる。  漢方薬でどのくらいのことができているのか実際には確定しようがない。ただ多くの人たちが同じように治療を受けている病院仲間より自分は元気だといってくれるし、信じられないような日々を過ごしてくれている人も多い。癌に関して薬局が出来ることは、今受けている治療の悪影響を出来るだけ抑えること、そして将来にわたって免疫を正常に保つ投資を手伝うこと。それだけしかない。子を思う母の力、夫を思う妻の力の底力をまざまざと見せ付けられる日々だが、いつまでもその人たちが笑顔でいられるように微力ながら貢献したい。