ボレロ

 念願の「ボレロをコンサートホールで生で聴く」願いがかなった。  岡山シンフォニーホール開館25周年記念公演があって岡フィル、岡山交響楽団岡山市ジュニアオーケストラ合同の演奏だった。クラシックの素人にとってボレロは親近感が持てる曲だ。素人でも、あの静かで単調なメロディーが、徐々に力強くなってクライマックスを迎える醍醐味は分かる。まるでどんどん力を増す大衆の蜂起のように聞こえるが、僕の勝手なイメージだろう。ラヴェルがどのような意図で作曲したのか知らないが、僕はボレロを聴くといつも勝手な空想をして勇気付けられるのだ。  今日のコンサートでもう1つ素晴らしい経験をした。今日は3部構成になっていて、一部は打楽器中心の構成だった。その中で圧巻だったのは、IPU・環太平洋大学のマーチングバンドのパフォーマンスだった。予備知識無しで始まったので、一瞬にして引きずり込まれた。和太鼓の訓練された打ち方に圧倒され続けている10年間だったが、正直それらの経験を上回っていた。なんて集団が岡山県にあるんだと驚いたが、それもそのはず、全日本3位の実力らしい。一緒に行ったかの国の若い女性達も、和太鼓びいきのはずなのに「オトウサン ツギハ イツアリマスカ?」と催促の言葉をその場で出してきた。  ひたすら仕事だけをして、色々な経験を積む機会を失っていた。もう寄り道を許される年齢に達したから、積極的に仕事以外も充実させようと焦っている。ただ今の経験を若いときにしたからと言って、僕の力が増したわけではなく、今と同じ程度の自分でしかないが、感動の数だけは増えていただろう。日常とは全く異質の感動は、芸術の最も優れた功績だ。生きていて良かったと、自力で思えなくても、芸術家達のおこぼれで同じ感情に浸ることは出来る。芸術に救われることに気が付くまでにこんなに時間を費やした。