偶然

 こんな考えられないような偶然を起こすことが出来るのに、どうしてロト6では起こせないのだ。欲がからんでいるからかなあ。  数ヶ月前に、ある人から、どうして我が家の空き家を都会の人に貸したかを調べている学生がいるから会ってやって欲しいと頼まれた。あまり詳しくは分からなかったが、紹介してくれた人が、町おこしで頑張っている人だから、協力しない手はないので即答した。2人の青年がやってきたのだが、京都大学の学生だった。見るからに知性的・・・・ではなかったが、楽しく彼らの質問に答えることができた。  ここまでが単なるあらすじでここからが脅威の偶然。こんなことがあるんかと言うような展開になった。  一昨日、完成させた報告書を見せに牛窓に来るという連絡をくれたのだが、電話を切る前に余談話として、実は一方の学生のお母さんが僕を知っていて、牛窓に若いとき(学生時代?)に来たことがあり、僕が牛窓を案内したというのだ。突然の展開に、頭に浮かぶものは何もなかった。全く記憶から消えていた。そのうち「そんなこともあったっけ」になり、「誰か訪ねて来た気がする」になり「名前も顔も覚えていないけれど確かに誰か来た」に落ち着き、「後は牛窓で」と言うことになった。  以前にももらっているはずだったが彼がもう一度名刺をくれた。と言うより報告書の中に挟まっていた。その名前を見て直感的にある作家の名前をもらってつけたなと思った。そこで彼にそのことを尋ねると正に図星だった。その作家は僕らの学生時代は多くの青年が心酔していて、僕も男の子が出来たら付けたいと思っていた。ただ僕の場合苗字と名前がよく似た字になるのでバランスが取れなくて止めた経緯がある。その青年の場合自然な感じだから、理知的でいい名前だと思った。すぐに見破られるような名前をつけるのだから、お母さんなる人物も所詮僕等と同じ穴の狢だったのだろう。  彼が東海地方の実家に帰り、ふと今やっている研究の話を口にしたことから、とんでもない「偶然」が生まれた。優秀なお子さんを持って幸せな人だと、顔かたちのない幻の女性を祝福したい。