ラブラドール

 なんて優しいまなざしなのだろう。こんなに至近距離で見たのは初めてだったから、体の大きさに驚いたし、頭の大きさにはもっと驚いた。人間より大きいのではないかと思われるぐらいだから、頭もかなりいいのではないか。その証拠に飼い主夫婦の言うことをよく聞く。薬局の中だから、人間にもそれなりの礼節は要求するが、このワンちゃんは非の打ち所がない。御夫婦が漢方薬の相談をする時間、1時間近かったと思うのだが、相談机のすぐそばでおとなしく待機していた。時に眠るように体を横向けにするが、薬局の中やスタッフを信用していてくれるようで皆が嬉しくなる。我が家は全員が犬好きだから大歓迎だ。そもそも駐車場の車の中で一人?待っていたのを妻が見かねて招き入れたのだ。  あまりにも大きいので体重を尋ねると43kgあるらしい。スリムな大人の女性と同じくらいだ。テレビやユーチューブでよく見かけるように、子供はもちろん大人でも体を枕にして眠ることが出来そうだ。何でも御夫婦はワンちゃんと川の字になって眠るらしい。よほど深い眠りを約束されそうだ。  一度だけ、机の下に大きな頭をもぐらせて、僕の手を舐めた。まるでご主人様を治してくれと言わんばかりだった。あの優しい目で見つめられると、意思の疎通が出来そうだ。心は瞬く間に通い始めた。奥さんが「この犬は自分が犬ではなく人間と思っている」と教えてくれた。僕も、目の前の大きな顔を見ると犬のようには見えなくてまるで人格を持っているようだった。  分かる、分かる、いや分かった分かった。、下手な人間なんかよりはるかに愛情を注ぎたくなる理由が。人間なんかより犬を選択する人がいても不思議ではない。あのまなざしは人間には出来ない。何故なら、人間は悪意に満ちているから。