クール宅急便

 犬の殺処分を防ぐ団体で活動していた薬剤師が漢方の勉強に来て、かなりの数のワンちゃんを漢方薬で世話していたが、家庭を持った関係で来ることができなくなった。今までお世話していた方の漢方薬を時々作りに来るくらいだ。ただこの数年の間に、僕が人間のために考えた漢方薬の処方がそのまま犬に当てはまることをそばで見ていて確認した。その事実は興味深かったが、実際僕がその代役をやろうとは思わない。  3週間前に御自分の漢方の相談に来た女性が、漢方薬が出来上がるのを待っている時間に、店頭に陳列しているアトピーのための塗り薬を見つけた。娘が東京の研究会で知識を得て作り始めたものだが、人間によく効くことはもう数年の経験で確かめている。ただ動物にはまだ使ったことがない。ところがそれを女性が使ってみると言ってくれたので、思わぬ実験が出来た。猫の漢方薬の相談だったら断っていたかもしれないが、塗り薬を使ってみるというのだから拒む理由はない。  翌日あることで来店したときに、1年半獣医に通ったが、塗ってもすぐに舐めてなんら効果が無かったが、昨日は塗った後舐めなかったと教えてくれた。たったそのくらいのことだけで飼い主は喜んでいたが、今日漢方薬を取りにきたときに自分の症状の好転のお礼よりも前に、猫の皮膚炎が9割くらい治ったことを報告してくれた。家族に内緒で飼っている猫らしくて、高額な獣医の費用のこともあって、満面の笑みで報告してくれた。  こうした体験はあまりないので、猫を治しても結構喜ばれるんだと思った。動物は人間に比べてワイルドだから薬が効きやすいのはそばで見ていて分かっていた。まるで人間のように動物を愛する薬剤師の様には気持ちをこめることは出来ないが、心はクール宅急便でも、知識さえあれば治すことができるものだと思った。