自慢

 午前5時半。いつものようにモコを連れて隣の駐車場に出ると、西の空に雪をかぶった連峰が連なり、朝日に照らされ雪が焼けていた。手前の低い緑豊かな丘のはるか彼方に、青空を背後に抱えたその峰峰の眺望は圧巻だった。台風風(たいふうかぜ)の名残か、風が駐車場脇の木々を揺らし、大きな音を立て、上空では慌てたカラスの群れが鳴き声を上げながら山のほうに飛んでいった。  もちろんこれは雲の芸術だ。一時の事とは言え、僕は十分に堪能させてもらった。少なくとも中国山地が迫るところまで北に行かないと見えない光景を、雲が作ってくれた。海に面し背後には丘が迫っている瀬戸内沿岸ではありえない光景だ。  ただ、今朝見た光景と同じような景色を僕は、富山県に住んでいる患者さんから送ってもらった酒の化粧箱で見た。恐らく海から立山連峰を写している写真だが、海と、その雪をかぶった山脈が異常に近いのだ。こんな光景は見たことがない。北国にはひょっとしたらよくある光景なのかもしれないが、僕には衝撃的だった。中身の酒よりずっと僕を酔わせてくれた。  狭い国土と言いながら、そのほとんどを訪ねた事がない。人々がそれぞれ自慢するふるさとを確かめもせず多くの人は我ふるさとを自慢する。比較に基準があるわけもなく、思い入れがまかり通るのがふるさと自慢かもしれない。