感謝

 かの国の女性達との交流は、きっかけが僕が彼女達の語学力に驚いたことから始まったので、9割が僕で残り1割が妻だ。そんな妻がさすがに今日は感動を新たにしたのか、帰りの車の中で、彼女達との出会いに感謝する言葉を何度も口にした。  来春に3年間の契約を終えて帰国する女性が「オバアチャンニアイタイ」と言ってくれた。もう何度も見舞いに同行してくれているので、3ヶ月も会わなければ気になるのだろう。母を見舞ってくれたかの国の女性は10人以上になるがこの女性は特別だ。まるで天使のように接してくれる。天性の優しさ、純朴さ、信仰心を持ち合わせている女性で、痴呆の母に尊厳を持って接してくれる。楽しい話題を連発し、そのたびに母の反応を確かめ、母が笑ったりしたら、抱きしめて頬ずりし「オバアチャン オバアチャン」と繰り返す。国の誰をイメージしたり思い出したりしているのか分からないが、全ての言葉や行動に裏がないことの心地よさが伝わってきて、何処の誰よりも大切にされている母を見て僕を幸せにしてくれる。赤の他人に誰がこんなに親切にしてもらえるだろう。施設から母を連れ出し、木陰を見つけて2時間近く話が途切れることはなかった。台風の影響か風が吹いていて、太陽の光も雲でさえぎられていたせいでとても気持ちが良かった。  気持ちよい風は妻の心の中も吹きぬけたみたいで「日本人では、あんな人に滅多にめぐり合えないでしょうね」と言った。僕は今までそれこそ巡り合ったことがないので「滅多にではなく、絶対ではないの」と言った。65年の人生で彼女のような人格に会ったことがない。日本人には天真爛漫などと言う言葉はなかなか使えない。もしそんな人格を持っている人がいれば、芸NO界にでも入ろうかと言う馬鹿の白々しい演技でしかない。  僕ら夫婦に姥捨ての自責の念が無くなる事はないが、日本一母を大切にしてくれる若き友人を母に巡り合わす事が出来たのは僕だけではなく、妻にも救いだったのだろう。車中繰り返した言葉でよく分かる。