物語

 電線に止まっている鳩を真下から見ると、ただの塊だ。あの独特のクークルという鳴き声を聞かなければ何の鳥かわからない。  僕が毎朝となりの大きな駐車場に出るのは、6時前だ。6時に散歩に出かけるのだが、その前にモコの散歩もしておかなければならない。ミニチュアダックスだから散歩と言っても駐車場で十分用が足せる。それこそ用も足せるし、散歩もそれだけで十分だ。まして老犬だから、駐車場の端から端までも歩かなくなった。  駐車場の真上を電線が2本走っている。中腹道から県道に延びる電線だから少し高い。ここ数日僕がモコを連れて駐車場に出ると1羽の鳩が電線に止まっていて、クークル、クークルと鳴いてくれる。まるで僕達を待っていて挨拶をしてくれているように。同じ電線の同じ場所で、同じように鳴く。僕はしばし見上げるのだが、下から見た姿がとても平和の使者のように見えなくて、なんとも気が和む。  2年前傷ついて捨てられようとしている鳩を娘が拾ってきた。数日飼ってから京山にある鳥獣保護センターに連れて行った。おかげで半年後には元気になって自然界に帰っていけたそうだが、なんとなくその土鳩ではないかと夢想したりする。鳩は方向感覚が抜群だから、30kmくらい簡単に帰ってくる。土鳩がこんなに県道近くまで毎朝飛んでくるのが不思議で、とても山鳩のようには思えない。日常出くわすあらゆることを物語には出来ないが、めったに起こりえない当時の体験は、何ページにも渡る想い出本になっている。  僕の両親の代には全く縁がなかった動物達との触れ合いを、動物好き達との縁で体験させてもらっている。大切にする対象、守ってあげるべき対象。教えられることは沢山ある。