花火

 牛窓町瀬戸内市に合併され、程なく市からの援助が止まりそれまで何十年続いていた花火大会が消滅しそうになった。そういったときに有志が集まり「花火打ち上げたい」をもじって「花火打ち上げ隊」というのを作って自前の花火大会を守り続けている。詳しいことは知らないが、市からお金や人員が期待できないから、自分達で寄付を仰ぎ、自分達がスタッフになって頑張っているみたいだ。僕は元々花火に興味がなかったので、毎年背中を花火に向けてテレビを見ていた。  有志たちだからおのずと資金やスタッフ数に限りがあり、打ち上げられる花火も従来からはかなり少なくなったような気がしている。会場に行くには薬局の前を通らなければならないから、人気ぶりも交通渋滞の加減で分かる。やはり渋滞もほとんど気にならないくらいになっていた。ところが今年は、打ち上げられる2時間くらい前から薬局の前を通る車の速度がかなり落ちていた。そして1時間前には歩行者に追い抜かれるくらいのスピードだった。  今年も背中で花火の音を聞くだけのつもりだったが、妻がかの国の女性を会場に車で運んで、迎えに行かなければならないが、恐らく車を駐車するスペースがないから、一緒に来て女性達を探してと言われた。そこで10数年ぶりに会場に行ってみた。あれだけの車が運んだ人たちを何処に収容して楽しんでもらうのかと思っていたら、市場のそばにある大きな桟橋がメインの観客席になっていた。桟橋だから海に当然突き出ていて、100メートルくらい沖の堤防から上げられる花火が真上に見える。音もその距離だから大迫力だ。僕はその雑踏の中でかの国の女性達を探したが、暗いのと、人が多すぎることですぐに諦めて花火を楽しむことにした。特別きれいな花火が上がったときに、声援と拍手が起こることを初めて目撃した。花火評論家を気取った酔客がやたら褒めていたのにも遭遇した。  僕はこれだけ多くの花火を打ち上げるお金がよく集まったなと意外だったが、恐らく長年の努力を評価されて、市からの援助が出たのではないかと思う。それとスタッフの中に市の職員もいた。同じ日の同じ時間に岡山市の花火大会もあるのに、これだけ多くの人を引きつけるのは何故だろうと考えた。岡山市に比べれば圧倒的に少ない観客、沖の堤防から打ち上げられる花火を真上に見られる(かの国の女性達が首が痛くなったというほど)広大なエスイーシの会社の跡地を駐車場として開放しているから車で会場まで来ることができる。ヤマト薬局がある。  僕は花火打ち上げ隊の中心人物を知っているが、自分の事業だけでなく、ふるさとの役にたとうと言う心意気に感服する。ほうっておいても膨張する大都会とは違って、危機感しか糧になるものがない田舎では、華の都大東京のように雄弁詭弁の人間はいらない。