鼓展-2016-

 さすがにこの季節のデッキは気持ちがいい。運よく太陽もずっと照り付けているわけではなかったので、潮風が気持ちよかった。珍しく30分くらいデッキに立ち続けた。色々と形を変える波を見た。前を横切る大きな船や小さな船を見た。浮遊するゴミも見たが、鵜が孤独を楽しんでいるのも見た。遠ざかる高松のビルを見たし、思いのほか船に接近する島々も見た。少しばかり過去も見たが、今日を重点的に見た。明日は見えなかったが、見るほどでもないことを悟った。  讃岐国分寺太鼓保存会の鼓展-2016-をかの国の女性6人を連れて聴きに行った。香川県で独自のコンサートを開けるのは、この 讃岐国分寺太鼓保存会と僕の大好きな夢幻の会だけだと思う。もちろん讃岐国分寺太鼓保存会には感謝している。ただ1つだけ僕には不満があったのだが、なんとその僕の不満がかの国の女性達には一番受けた。やはり本来的に優しい人は違うんだと反省した。  讃岐国分寺太鼓保存会では、コンサートの中で必ずある時間を費やして会場にいる子供達を舞台に上げて太鼓指導をするのだ。県外からわざわざ聴きに行っている僕としては、全く無駄な時間なのだ。そんなことをする時間があるのなら、1曲でも沢山聴かせて欲しい。ところが舞台に上がった幼い子供達が指導者の指示に従って、懸命に太鼓を叩き始めると、かの国の女性達が俄然元気になって、拍手どころか声援を送るようになった。6人のうち3人がかの国へ幼い子供を残してやってきているから、子供のことを思い出したのだろう。わが子と重ねたのだろう。優しいお母さんになって声援を送っている光景を見て僕も嬉しかった。来日してまだ3ヶ月の人たちだから、初めての和太鼓コンサートだったのだが、期待以上の喜びように接して僕も嬉しかった。  デッキは1人でいるのがいい。少し低すぎるかと思える手すりにもたれ、己に不都合な点にも向かい合えるから。