説得力

 2件も続いたら言わなければならない。その道のプロではないから、どれだけの説得力があるか分からないが、親しい人がそうしたことにみすみす遭遇してしまうのを見るのは心が痛い。特に僕の薬局は、来てくれる人のほとんどが、ごくごく普通の人でそんなに経済的に恵まれているわけでもなく、トラブルを解決できる肩書きを持っているわけでもないから、予防できるなら予防したい。  1人は若い女性、1人は僕ら世代の女性だが、2人とも安定剤を数種類飲んでいた。若い方でも3年、古い方は10数年。「効いていたの?」と二人に事故後尋ねたが、どちらも「分からん」と答えた。効果が分からないのに飲んでいるのが共通点だ。若い方の事故の大きさは本人から直接聞いていないからわからないが、母親は漠然と「大事故を起こした」と教えてくれた。古い方はよほど無念だったのか、かなり具体的に教えてくれた。朝出勤しているときに、居眠り運転でガードレールに突っ込んだらしい。運悪くそのガードレールが私有地のものだったので、自分の車代、ガードレール代を全部自費で支払ったらしい。若い方は夜勤明けで仕方ないかもしれないが、古い方は出勤途中で何故あそこで急に居眠りに襲われたのか分からないと言っていた。まるで意識を失ったかのようでしたと表現したから、睡魔のようなのとは違っていたのかもしれない。自分でも分からないと何度も繰り返していたが、こっちは余計分からない。  薬の注意書きに「車の運転や機械操作に気をつけるように」とこの種の薬には書かれてあるが、車の運転を止めて生計が成り立つ人など少ないだろう。所詮無理な注文なのだ。もっともああいう風に書いておけばいざ何かあったときに、責任は免れる。患者を守っているのか自分を守っているのか分からない。事故を起こしたら、その個人の責任。製薬会社や医療機関が援助してくれるわけではない。起こしたら修羅場だ。個人で奮闘しなければならない。  僕は経験的に「飲まなくてもいい薬を飲んでいる」人が多いように思う。そんなに薬なしでは生きていけないのかと思ってしまう。どのくらい薬が貢献してくれているか調べないまま、惰性で口から入れている人が多い。製薬会社の長年の努力が見事に花開いているのだ。「薬無しでは不安で不安で仕方ない」ヘビーユーザーを一杯作ることに成功した。同時進行で「薬無しでは不安で不安で仕方ない」ヘビーユーザーも作った。前者はクスリと読み、後者はヤクと読む違いはあるが。、