歯に物が挟まった言い方・・・では、なんだか悪い印象だが、実際はそうではなかった。ただ単刀直入には聞けなかったのだろう。その後結構盛り上がったから話題としてはよかったのだが。  ある女性セールスは、花や犬が好きで、僕の娘と趣味が合う。我が家の駐車場に庭を作ったことで、その距離が一段と縮まったようだ。お母さんを連れて休日にやって来るくらいたから、お母さんもガーデニングに興味があるのだろう。  先日牛窓のイタリアンレストランへ食事に行ったとき、母娘とも牛窓の海辺の景色がとても気に入ったようで、土地を買い、家を建て引っ越してこようと言うことになり盛り上がったらしい。丁度レストランの横が1区画空いていて、不動産屋さんに尋ねてみたそうだ。残念ながらそこは既に売約済みだったのだが、道路を挟んだ3区画は売れ残っている。僕の散歩コースだから、もう10年くらい見続けている。つい最近入ったチラシによると、60坪が400万円を切っていた。そのことを彼女に言うと驚きの声を上げていた。自慢ではないが、恐らく牛窓では僕の薬局があるところ辺りが一等地だろうが、それでも坪当たり10万円くらいだと思う。都市部の人間なら安過ぎて驚きを隠せないだろうが、バブルがはじけてからと言うものはそんなものだ。彼女は都会の人間ではないが、牛窓が映画のロケ地としてしばしば利用されることなどを知っているから、よい誤解をしてくれていたのだと思う。バブルの頃はそれこそ30万とか50万とか、考えられないような数字も提示されていたが、所詮バブルで、今は分相応で落ち着いている。恐らく、その頃の数字が耳に残っていたのだと思う。  いっそのこと3区画全部買ったらと、提案すると「1区画は英国風の庭園にして・・・」と夢を膨らませていた。「海が目の前に見えるところが素敵ですね」と言う彼女の実家は後ろに山が迫っている田舎で、大雨のときには怖いそうだ。とても良心的な女性だから家族を伴って牛窓に越してきてもらえれば、町のためにもなる。隠れ不動産屋の僕としたら、欠点も伝えておかなければならないから、台風に備えて基礎を高くしなければならないことは伝えた。海は川と違って流れないから、気がつかないうちに音もなく水が上がってくる。だから歩くことも自由だ。海面から2mも上げておけば津波も大丈夫だ。  実際に彼女がどんな選択をするのか分からないが、この世はいろんな縁で動くものだと思った。願わくば良い縁ばかりであってほしい。