投降

 なんて洞察力なのだろう。驚いたと言うより、あきれたと言うほうが正しい。もうそこまで見透かされたら、両手を挙げて投降だ。  煎じ薬をとりに来た女性が僕の顔を見て「疲れていますね」と言った。僕は取り繕うタイプではないので「めちゃくちゃ疲れている、ぐったり」と正直に答えた。女性は僕の疲れが肉体的なものでないことを悟っているみたいでニコッと笑った。スタッフや家族、患者さんが周りにいたのでメモ用紙に「心」と書いてそっと見せた。すると女性は、当然のように頷き、一段といい笑顔で笑った。自白した僕もその笑顔につられて思いっきり笑った。ところがその女性がすごいのは「人生最高の辛さの次くらいのことを抱えているのではないですか?」とピンポイントで強烈な質問をしてきた。「そう、全くその通り」と完敗だ。  その女性を僕は尊敬している。僕よりは一回りは若いだろうが、僕の1000倍くらいつらいことを抱えていると思うのに、僕の10000倍くらい明るい。そのギャップを作り出すものは何なのだろうと、話しながら答えを探すがいまだ分からない。「カウンセリングしましょうか?」といたずらっぽく笑うが、本当ならして欲しい。ただ、仕事中の僕が患者になる訳にも行かないから、丁重に断った。  薬剤師だから、白衣を着ているから、漢方薬で多くの人のお世話をしているから、心身ともに健康に見られるが、そんなことはない。心も体も結構疲れている。こじつけのような理由を探して日々モチベーションを保っているが、危ういものだ。特に最近二番目に大きい悩みに日々翻弄されている。この頃は解決方法を探したり、そのために何かをしようとする気力も萎えて、おそらく今日見抜かれた表情が定着しているのだろう。人には人の背負える重量があり比較は難しいが、きっと僕は過積載で黒い煙を吐いていたのだろう。  1000倍の重荷で10000倍の笑顔ができる女性に今日は少し勇気をもらってモチベーションに変えた。悲しみも苦しみも、そして喜びも、キャッチボール出来る人がいたらもっと人生は安らかなのに。