郷愁

 「生きていたら家族に迷惑になるとずっと思い悩んでいました」などと聞くと、大病を患っている方のように思ってしまうが、そんなことはない。この僕でもお世話できて、2つの症状が随分と好転したのだから。具体的な病名は控えるが、どちらも致命的なものではない。一つは不自由、一つは悪い病気を予感させるだけで、日常生活は自力で十分送れている。漢方薬も2週間に一度車を運転して遠方から取りに来る。ただ、その二つとも現代医学が苦手としているものだから、治りにくかっただけで、漢方薬ならかなりの確率で解決できるものだった。  この人は「子供に元気になったと伝えてくれませんか」と僕に言った。この人が漢方薬の相談に来たのは、子供の不調を僕がお世話して調子がよくなったから僕を信用してくれたからだ。私も治してほしいとの依頼だった。子の不調の原因は親の不調だったのだが、親の不調も子が原因だと知った。お互いがお互いの不調の原因を作っているわけだが、ただこの親子は、よくある世間の関係とは逆で、心からお互いを心配しているのだ。今の時代にこんなに良い親子関係を築いている家庭があるのだろうかと思わせるほどだ。ただ、旨く行っているときはそれがエネルギーにもなるのだろうが、いざ躓いたときには、足かせになるのだろう。伝言は、お互いを心配しながら、お互い心配をかけまいとして平静を装っているから、僕を通して安心させようとした親の配慮なのだ。  家族関係がとてもクールになっている時代に、こうした愛情でつながっている関係を見ると郷愁をそそられる。ただ不調を治す薬剤師としてはついクールな関係を勧めてしまうのだが。