名前

 偶然北と南で、僕の苗字と同じ名前の2人が行方不明になっている。そもそも僕の苗字を名前に使った人を初めて見たのはいつの頃だろう。まさか名前に使えるとは想像しなかったので最初は驚いた。苗字でもめったに見ないのに、こんなにたて続けで名前に使われているのを見るとは思わなかった。南の不幸も北の不幸も記憶に深く刻まれる内容かもしれないが、僕にとっては、そして僕の薬局を利用してくれている人にとっては、リポーターやアナウンサーに繰り返し連呼される名前のほうが印象に残るみたいだ。  僕の苗字で二つのことを連想する。一つは戦艦大和。もう一つは大和朝廷。どちらにしてもあたかもこの国を象徴するような苗字で、なんだか気恥ずかしくもあり、申し訳ない。いつの時代に誰がこのような名前をつけたのか知らないが、よくも許されたものだ。全くの平民がこんな大それた名前をつけることが出来たのは、よほど国が混乱していた時にどさくさに紛れてつけたのだろう。平時なら打ち首獄門だ。いや逆で戦時なら火あぶりの刑だ。  最近は名前にも個性を重んじるようだが、たいていは名前負けしている。名をなした人は結構平凡な名前で、3面記事に登場する人は個性的な名前が多い。これは妻の洞察によるものだが、なんとなく当たっているような印象を持っている。名前をつけるときにも謙遜さが必要なのだろうか。目立たないように誰からも受け入れられるようにと、配慮が伝承されてきたのかもしれない。そうしてみると僕の名前(彰夫)も少し個性的過ぎたかもしれない。僕なんかもっと地味に「熊」か「与太郎」でよかった。