幼稚

 珍しくこの時間に帰って来た。いとうたかおのコンサートが牛窓であったから、何十年ぶりかにライブを聴きに行った。さすがに聴き手は僕世代の人たちばかりで、居心地はよかった。40年前にファンになって、口ずさんだ歌も多いが、今日は僕がその世界から遠ざかってからの歌ばっかりだったので、少し残念だったが、それはこちらの勝手な言い分だろう。歌い手としては新しい曲を歌いたいのは当然だ。  コンサートの後、何人かが残って話をしたのだが、日常とは縁のない学生時代のような話題で盛り上がった。新しい人とも知り合って、まるで異次元の数時間だった。10代の最後から10年間くらいの暮らしぶりが一瞬復活したみたいだった。  世代が同じと言うこともあって、いとうたかおが選ぶ言葉がすんなりと入ってくる。今僕がテレビなどで歌を聴くことはないが、その大きな理由が、あまりにも幼稚な言葉遣いなのだ。知性の片鱗、いやそんな言葉ももったいないくらいの歌詞にうんざりするのだ。若い人が年長者を惹き込むのは至難の業だろう。  それにしても65歳になってなお全国のライブハウスを回る。こんな風景は僕らが若いときには想像できなかった。恐らく当時は30歳になったら引退くらいな感じだった。わずか数十年のうちに本当にいろんなことが変化した。恐らくこれからもっともっと急激な変化が日常茶飯事に起こってくる。そしてその必然として世の中のシステムの中に必ず異常な動きをするものが出てくる。そしてそれは体内の癌のごとく異常な増殖を続け、やがて社会を破壊する。僕ら世代の人が今だ歌っているなら、嘗て僕たちがそうしたように、力を持っているものに立ち向かえるようなきっかけを歌で表現して欲しい。