安易

 今朝の症例報告に少し手を加えて書く。何しろかなり踏み込んで書けるのはこのブログだけだから。    70歳を少し回ったばかりの女性が、年末に交通事故に逢い入院していた。退院してから体調不良が続き、心療内科にかかっている。そこで睡眠薬2種、抗ウツ薬2種、抗不安薬1種 めまい止め1種 食欲増進薬1種をもらって飲んでいるが、今だ食欲はなく、体がしんどい。イライラと落ち込みの振幅が激しく、いつも動いていないと気が狂いそうになり、不安感で押しつぶされそうになると訴えてやってきた。僕の説明も上の空で自分が言いたいことだけを言う。だから僕が養生法などを言っても聞き漏らす。ただ、僕はこんな方こそ漢方薬で救うことが出来ると思った。恐らく僕の前で演じているそのものを医者の前でも演じたから、わずか3ヶ月でこんなに薬を飲まされているのではないか。医師も当然懸命に治療しようとした挙句なのだが、僕に言わせれば自然治癒を助ける薬が一つも含まれていない。とことん患者の(心の)不快症状を押さえ込む薬だから、目の前の女性のように無気力になってくる。  心身ともに元気にしてあげる漢方薬を飲んでもらったら2週間で、焦燥感(じっとしていられない)は全くなくなり不安感も随分和らいだ。イライラと落ち込みは半分に減って、思い込みがなくなってうれしいと言っていた。僕の話も随分と落ち着いて聞くようになって、車で連れてきてくれる友人も随分リラックスして待っていられるようになった。  僕は精神科領域のお医者さんの力をもちろん否定するものではないが、もっと自然なものを患者の体に入れるようにしたほうがいいと思う。心のトラブルを治すのは石油から出来た薬ではないと思う。そんなものを安易に脳の中に入れること自体が自然への冒涜だと思う。  息子に心療内科系の漢方薬を教えてやると、随分とその領域の患者さんが増えたみたいだ。今まではその種の患者さんは心療内科に回していたらしいが、今では自分で積極的に漢方薬で治療している。息子の書いた処方箋を持ってくる患者さんからも、20年近く治らなかった心と体の不調が2週間で改善したなどとお礼を言われる。もちろん社会的な危害を及ぼすような患者さんは、専門医しか対応できないが、ちょっとした心の不調などは漢方薬のほうが圧倒的に効果があると僕は思っている。  現代は心療内科の範疇の病名も数十に上る。もうほとんど細分化された名前にはついていけない。それでは診断も進歩したかと言うとそこは取り残されたままだ。何かのマーカーが存在する疾患ではないから、医師の主観が大いに介入してしまう。一方、治療薬が進歩したかと言うとこれも心もとない。本来、極度の疲労の上に、極度のストレスがかかったか、或いはボデーブロウのようにストレスがかかり続けたかによって発症するだろうものは、石油から出来た薬より、周りの人間達の寛容のほうが数段回復に寄与する。それがないから安易に薬を飲ませたり飲まされたりするのだと思う。本来はこの欲深い社会こそが患者だ。社会を先に治すべきなのだ。そうしないと、弱い人間が心まで破壊され、破壊されてもなお、医薬品と言う名の石油製品の消費者にならされる。