息切れ

 僕は絶対自信があった。案の定、帰りに寄ってお礼を言ってくれた。それも「完全にはまりました」だから100点満点だ。  ガンの術後のお世話をしていて、とても元気に毎日を過ごしてくれている女性が、ある患者さんを連れて来てくれた。そんなに難しいトラブルではなかったので楽しく応対した。薬を持って帰る段になって「このあたりで食事が出来るところはないですか?」と尋ねられた。遠くから毎回やってきてくれるが、僕の薬局から東には行ったことがなく、いつもUターンするだけだ。折角の観光地も単なる漢方薬をとりにいく町なのだろう。ところが今日は大の親友を連れてきたので、一緒に食事をして帰りたかったみたいだ。  牛窓は食事が出来るところには困らない。僕も知らないところを含めるといったいどのくらいあるのだろうと思うが、娘がすぐに「うしまど茶屋・潮菜」を推薦してくれた。70年配のざっくばらんではあるが品も備えている二人に合うと直感したみたいだ。日本食が幕の内のようにして出てくるのだが、僕の姉2人がとても気に入ったので僕も自信があった。千葉と横浜の姉達がほめるのだから、それも牛窓にある店を大都会の女性がほめるのだから実力があるのだと思った。勿論僕も食べて美味しかったが、僕は何を食べても美味しいたちだから当てにはならない。  娘達は、僕もそうだが、単に漢方薬だけでなく、牛窓の町を総動員してヤマト薬局に来てくれる人たちをもてなしたいみたいだ。単に薬を調剤して渡すだけの薬局をやりたくなくて「細々とのんびりと」やりたいみたいで、僕以上に牛窓の隠れた力を発掘しようとしている。それどころか、道路を挟んだ駐車場に誰もが憩える花壇を作りたいそうで、そうした職業を目指している若い女性に依頼している。花を楽しみながら美味しいコーヒーでも楽しんでもらえれば、体調不良もそれだけで改善する・・・ことはないけれど、よい気は巡るだろう。  効率や生産性が優先される時代は、多くの脱落者を生む。それとは逆の発想が日常の中に浮かんだり消えたりするのは大切だ。息切ればかりでどうする。