腰痛

 さっきまで楽しく話していたのに、急に二人がかしこまって「ワタシタチ ビョウキデスカ?」と質問された。  真剣な顔をしていたから、1人ずつ詳しく聞こうとしたら、2人とも立ち上がり、1人は右、一人は左側の尻タブを押さえて「ココイタイデス」と言った。正に対称部分だが、坐骨神経の通り道だ。腰が悪いというと、「コシデハナイ」と納得しなかったが、体の成り立ちを教えると結局は納得した。かの国での少女期の出来事、交通事故の経験、現在のアルバイトの内容などを教えてくれたが、要は負荷がかかって起きた坐骨神経痛なのだ。過去のことは原因ではなく、今の老人施設でのアルバイトが作った症状だ。2人ともモデルのような体型で、いくら若いといっても、要介護5に近い老人を世話するほど体格には恵まれていない。彼女達は多くの留学生と言う名の労働者とは違って、勉強する時間が必要だ。だから介護のアルバイトを探してあげたのだが、他の職員と同じ内容の仕事をこなせられるようになって、その分、腰への負担が増えたのだ。日本語試験も1段ずつ階級を上げ、今春の日本語学校の卒業後も、介護の専門学校に進学できるように、介護の運営会社に配慮してもらえたのだが、なにぶん腰が持たなければこの仕事で会社に恩を返すことは出来ない。学費の補助と交換に卒業後の数年間の働きが条件になっているが、約束を果たせなくなる可能性がある。いくら悪意がなくても、腰痛もちで老人の世話は出来ない。  「下手をしたら、借金だけがのこてしまうよ」と言うと、やはりそれを一番心配しているみたいで、「オトウサン オネガイシマス」といつものパターンだ。漢方薬を作り、必ず実行して欲しい運動を教えると、安心したのか2階に上がって妻と又話し始めた。  ひとしきり話した後、邑久駅まで送っていったが、夜の電車に飛び乗る2人を見て異国で暮らすたくましさに感心するが、心配もまた絶えない。「ワタシタチハ 50ネンマエノ オトウサンデス」そうか、僕は2人の中に嘗ての僕を見ているのだろうか。