南部

「ナニイッテイルノカ ワカラナイ」 受話器を片手に、笑い続けている女性がいた。僕と話をしている女性に{〇〇ちゃん楽しそうだね、誰と何を話しているの?」と尋ねると、答えがそれだ。どうして同じ国の人間同士言葉が分からないのか不思議だった。ふとしたきっかけでその謎が解けた。そのおかげで、寮の中がまるでいくつかの集団に分かれているのかと心配したり気を使ったりしていたのだが、その必要が無いことが分かってほっとしている。  かの国は北部、南部のほかに、中部と言うのがあって、おおむね3つに分かれているのだそうだ。僕はホーチミンハノイしか知らないから2分されているのかと思ったが、3つだそうだ。そしてなんと、その地域ごとに使われている言葉が違うのだそうだ。中国のように広大な国家だったらそれもありかなと思うが、日本と変わらない位の国土で言葉が違っては不便だろうし情けないだろう。そして面白いのはここからだ。中部の言葉はとても難しくて、北部や南部の人には分からないのだそうだ。丁度電話をしていたのが中部の人で、家族に電話していたから生粋の中部言葉だ。まったくと言って分からないらしい。ところが、北部と南部の言葉は「カンタン」だから、中部の人には容易にわかるらしいのだ。具体的な言葉が全く分からないから、このような紹介しか出来ないが、北と南の人は言葉にハンディーを負っているらしい。  日本でも方言のことを考えればうなづけるのだが、日本にはそれを克服する共通語と言うのがある。そのことを紹介して「共通語はないの?」と尋ねると無いと言っていた。この辺りが国民性だろうか。不便を不便と感じないところがうらやましい。  そう言えば、大学で日本語を勉強してきた通訳が、牛窓に来て苦戦している。生粋の牛窓弁の洗礼を受けるとは思ってもいなったのだろう。彼女は南部だ。