飼い殺し

ウツウツとしているくらいな状態で初めて治療を試みる人が薬局に来ることは間々あるが、うつ病の人が薬局を第一選択としてやってくることはまずない。この方もうつ病の治療を専門病院で何年か経験してから、相談してくれた。この方の雇用主の税理士と、僕の薬局の税理士が同じ先生だったことで縁が生まれた。元の雇用主が一所懸命働いてくれた従業員のことを心配して何かいい治療はないかと探しているときに僕を紹介してくれたらしい。なるほど、雇用主が心配し、又職場に復帰して欲しいと望むほどの好青年だった。薬局に来るほどの気力もなかったので、電話相談だったが、それでも彼の人格はとてもよく伝わってきて、いわゆる頑張り過ぎ病の典型だと僕には思われた。そこで病院の治療と並行して煎じ薬などを飲んでもらったら、そんなに時間がかからないうちに、少しだけ慣らしで仕事を始めることが出来た。以前ほど頑張り過ぎてはいけない事を常に念頭に置き、ブレーキに足を乗せての復帰だ。それから2ヶ月ほどして、完全に復帰のめどがついた。恐らく来月から完全に復帰することになるだろう。6月末から漢方薬を飲み始めてもらったから丁度5ヶ月で社会に戻ることになる。死にたいと思わなくなった。不安感がなくなった。落ち込むことがなくなった。マイナス要因は全て消えた。  僕は、彼と同じようにいわゆる現代医学に飼い殺しにされているようなうつ病の人は多いと思う。たかが漢方薬だが、言い方を変えればハーブで、香りで心地よくなれば、いやなことが少しは薄れる。それを繰り返せば、うつ病などと呼ばれる病気から解放されるのも頷ける。いたずらに脳の中に化学薬品を侵入させることはない。人間は何十万年も脳の中には糖しか入れなかったのだから、現代のように脳の関所を潜り抜ける科学物質を飲ませれば、心の病が増えるのも当たり前だし、それを治すために又新たな化学薬品を入れて、永遠に治らない状態になるのも当たり前だ。  彼を救ったのは、漢方薬と言う薬草の群れかもしれないが、その前に、彼を必要としじっと待ち続けてくれた雇用主と奥さんだ。必要とされ、大切にされること以上の力を僕は知らない。