後姿

 「ベトナムは非常に活発な印象でした。その中でも、繁華街を中心に、とにかくバイクの交通量が多く驚いたのですが、スマホをいじりながら走っていたり、信号無視など当たり前だったりと、とにかく乱暴な運転が多くて、彼らは刹那的な感覚で生きているのか??との疑問が絶えませんでした。」  仕事でベトナムに出張したことがある女性が、漢方薬を注文してくれたときに添えてくれた文章の一部だ。僕はこの女性の洞察力に感心した。この刹那的に生きているという現実を、往来で発見したのだから。  僕が多く接しているその国の若者達は、現地に進出している大きな企業の従業員だから、選びぬかれた人たちが日本に来る事が出来る。いわゆる日本人が嫌う3Kを押し付けるために小規模事業者にリクルートされた人たちとは全く趣を異にしている。日本にやってくる外国人の中で一番犯罪率が高いといわれる中で、彼女達はとても勤勉に毎日を過ごしている。でも、彼女達が認めるように、彼女達こそが少数に属するのだ。おおむね、メールを送ってくれた女性が見抜いた深層風景こそがよくその国の人たちを表している。  実はつい最近、彼女が見抜いた国民性についての講演を聞く機会があった。演者の経験談だが、カンボジアベトナムに工場を持っている経営者が、業績がよかったので特別賞与を出したのだそうだ。するとカンボジアの工場で働く人達は翌日誰も出勤してこなかったそうだ。お金をもらったから全員が会社を休んで遊びか何かでお金を使ったらしい。カンボジアの人たちの頭にあるのは、その日1日だけだそうだ。暗黒の軍事政権の下で暮らしてきたからそうなったのか、元からか分からないが、とにかくその日がよければいいのだ。ベトナムはさすがにそこまでではないが、演者は1週間と言っていた。具体的な事例は言わなかったが、1週間にも参った。青年達が平気で賄賂をいとも簡単に口にするような国だから、想像はつくが、僕達には想像できない刹那だ。  僕はメールを読んで勝手に想像した。無数のオートバイが行き交う光景を唖然と眺めている1人の日本人女性の後姿を。