銀杏

 笑点の何十年に渡るファンの僕だが、三遊亭 小遊三の下ネタと銀杏(ギンナン)ネタにはうんざりしている。だが今日はそのことについては触れない。飽き飽きした銀杏についての話題。  三遊亭 小遊三は貧乏ネタで、銀杏の実を拾って食べるということだが、昨夜ネタ通りの息子がそのギンナンの実を沢山持って帰った。嘗て見たことがあるようなないような、外見はナッツみたいなものだった。「臭いよ」といわれると余計臭ってみたくなるのが人の常で、袋に鼻を近づけてみた。なるほど区分けすれば臭い部類に入れてもいいかもしれないが、僕はそんなに不快な感じはなかった。というより何か懐かしい、記憶にある臭いだと思った。何度か鼻を近づけたり離したりして記憶を辿り、やっと正体をつかんだ。そして勝ち誇ったように大きな声を出した。「モコの耳の臭いじゃ~」  僕は嘗て2匹の犬としかスキンシップが出来る位に親密になったことがないから一般論ではない。1匹は雑種の中型犬で耳は立っていた。もう1匹は今いるミニチュアダックスのモコで大きな耳がたれて、常に耳をふさいでいる。だからだと思うがモコの耳は臭い。なんともいえない腐敗臭がするが、可愛いからその臭いもまた心地よい。後ろ足で時々耳を掻く事があるが、その時など真上に臭いが上がってくる。一瞬だが強烈な臭いがするが、それが又愛おしい。正にその臭いと銀杏の実の臭いが同じだったのだ。  大発見のはずなのだが、家族には受けなかった。どれどれと言って家族も嗅いだが、似ているとは言うが感動はなかったみたいだ。銀杏に似ていると言ったのが悪かったのか。  何処で教えてもらったのか、紙袋に入れて電子レンジでチンすると銀杏の実は美味しく食べれると言って、息子がその通りにしたら、電子レンジの中で紙が燃え出した。紙袋と封筒を勘違いしたらしくて、結局は封筒で再挑戦して美味しく食べれたが、美味しいという形容詞を用いてもよいくらいに変身していた。  銀杏の実だけで、話題にこと欠かなかった日だった。たわいのないことで言葉が行きかう、そんな珍しい日でもあった。