教訓

 教訓になりそうな話が、今日若い女性患者さんと出来た。  もう長い月数、漢方薬を飲んでくれているその女性のトラブルは内臓の過緊張だ。ゆっくりだが確実に改善してきている。それが証拠に表情が全く違う。もともと品のある女性で苦痛の色を出来るだけ隠していたが、現在の表情は苦痛からかなり解放され本来のものだろうと推察される。これはしばしば経験することだが、不快症状が取れてくると女性は美しくなり、男性も魅力的になる。この女性も典型的で、最近はこんなに美人だったのかと思えるくらい変わった。  話がそれたが、今日、完治手前で足踏みしているから、「よほどのうれしいことがあれば一気に解決するかもしれないよ。例えばロト6で3億円当たったりしたら一瞬にして内臓の緊張が取れて治るよ」と卑近な例を挙げて説明したら、「私はそれでは治らないと思う」と言った。一瞬耳を疑ったが、要は3億円で健康は買えないということだ。健康でなければ3億円など意味が無いと言うのだ。僕だったら3億円のためなら、病気の一つや二つと思うのだが、彼女はそれに関しては全否定だった。最初に相談に来た当初から、苦痛なはずなのに笑顔だけきれいな人だなと思っていたが、心までこんなにきれいだとは思わなかった。きれいと言う言葉は僕と比べて使えるのかもしれないが、又世の中では当たり前のことかもしれないが、俗物の世界からは高きところの話のように響く。  この話のやり取りから、僕の仕事は、ひょっとしたら人によっては3億円以上の価値のことが出来ているのかもしれないと思った。この不調さえなければとしばしば患者さんから言われるが、正に今日の若い女性がそのことを代弁してくれたのかもしれない。小さな町で、限られた人たちを相手に続けてきた仕事だが、ひょっとしたら、40年間で何千人、うぬぼれで言わせてもらえば、何万人ものロト6の1等の当選者を出してきたのかもしれない。ただ残念なのは、当の僕は一度もそれに当たっていないことだ。