濃度

 「こりゃあ、ダメだわ、効くわけがない」思わず口から出た言葉だ。  勉強に来ている薬剤師が相談を受けた事例だが、どうしても粉の漢方薬がこれ以上飲めないから(既に2種類粉の漢方薬を飲んでもらっている)食欲を作る漢方薬は是非錠剤にして欲しいと頼まれたそうだ。そこでその処方の錠剤を探して仕入れて欲しいと薬剤師に頼まれた。原則として錠剤を扱ったことがないので、早速漢方問屋に連絡をして仕入れた。  薬剤師に礼を言われたのだが、研究熱心な彼女は、しげしげとその漢方薬の成分表を眺めていた。そしてあることに気がついたみたいで、「この漢方薬うすくありません?」と僕に尋ねた。彼女いわく、僕の薬局で使っている台湾製漢方薬と比べると濃度がなんと4分のⅠ位しかないと言う。日本の病院で使われているやつに比べても濃度があまりにもうすい。恐らく半分以下だと思う。これではまぐれでも効かない。そこで仕入れた漢方問屋に電話で尋ねてみた。あまりにも濃度が低くて使い物にならないから、他の会社の錠剤に替えてと。すると漢方問屋の人が教えてくれた。もう何処の製造会社もその処方の錠剤は作っていないそうで、手には入らないそうだ。そこであまりにも濃度が低くて恥ずかしくて販売できないと言うと、「ドラッグストアなんてそんなものです」と教えてくれた。僕は漢方薬を勉強し始めて35年間、錠剤を使ったことがない。その判断が正しかったのだと自信を持った。  ドラッグストアで漢方薬を買う人がいたら、お金を捨ているようなもの、いやいやもっと崇高に、限りある漢方薬を経済行為のために乱穫するようなものだ。申し訳程度しか入っていない漢方薬を飲んで、漢方薬が効かないなどと言わないでほしい。