一本

 「どうだ、参ったか!」剣道か柔道で一本取った感じだ。  牛窓工場の人達はもう何回も和太鼓のコンサートに行っているが、どうも〇〇工場のかの国の女性たちは興味がないらしい。一人通訳の女性だけがとても気に入っているが、過去何度誘っても他の女性は遊びのほうがいいらしい。僕もさすがに日本の文化に興味を示さない人達のために出費できないから、もうあの工場の人は誘わないことに決めていた。と言うより接触するのも避けていた。  ところが今日、赤磐市の普門院と言うお寺で行われたGONNAの和太鼓コンサートに牛窓工場の人を7人連れて行くはずだったのだが、急遽仕事が入って二人行くことが出来なくなった。そこで〇〇工場の女性4人を牛窓工場の女性がわざわざ誘って一緒にコンサートに行った。(僕が誘っていたら断わられたと思う)お寺の境内で演者ととても近いところで聴くことになるから、一挙手一動が見え、汗の滴るのまで見える。迫力と臨場感、それと山に抱かれた由緒あるお寺と言う舞台も整って、かなり衝撃を与えたらしい。演奏が始まってすぐ驚きと感動の表情をしていたし、途中、楽しい演出にもノリノリで応えていた。途中の休憩時間にはメンバーと一緒に写真を撮ってもらったり、来月帰る女性たちは、カメラにも心にも思い出を収めていた。  コンサートが終わってから、寮に寄せてもらってカメラで撮った動画をコンサートに行かなかった女性たちが、顔をくっつけながら見入っていた。言葉が分からないから、参加した女性たちがどのように報告したのか分からないが、今年あと4ヶ月の間に5回分の和太鼓コンサートのチケットを8人分ずつ確保していると言うと「行きたい」「行きたい」と言う声が上がったから、「どうだ、参ったか」と言ってやりたい心境だった。  日本の商品文化しか目にせずに帰ってもらっては、思い出が薄っぺら過ぎる。暴買などと言う下品な行為や言葉とは全く縁のない働き者たちに何年も残る思い出を作ってあげたい。