腐敗

 職場の人間関係で被害者の側に立った人の抱えるトラウマはかなりのものがあるらしい。今だ買い物に行って出会いでもしたら、動悸がするほどらしい。もう会社を去って同じ社会人なのだから何の遠慮も要らないはずなのに萎縮してしまっている。僕はいつまでやられる側に立つのだろうと歯がゆくなるので「ぶっ殺すぞ、てめえ!」と胸座でもつかんだらと言ったのだが、根っからのおとなしい性格の彼女には到底できそうにない。ただ僕はこの考え方を変えるつもりはない。学校時代のいじめも、社会に出てから倍返ししたらいい。どうせ社会に出たらいじめられていたほうが社会的な地位を得ているほうが確率が高いのだから、ありとあらゆるネットワークを駆使して「教えてやる」といい。  さてこの女性は、お腹の不調を相談してくれたのだが、本人が思っているほど深刻ではない。いわゆる過敏性腸症候群だと思っているらしいが、僕に言わせれば単なる腐敗だ。アホノミクス張りの腐敗だ。38.5℃の体の中に、肉や魚を閉じ込めていれば腐敗するに決まっている。真夏日に戸外に肉や魚を並べているのと同じだ。腐らないわけがない。僕はお腹の中が真夏の炎天下になっただけだと分かっているので、ややこしい漢方薬は作らずに、とてもシンプルな処方にした。ウンチも甘酒も味噌も納豆も発酵がいいのだ。腐敗とは似て非なるものだ。アホノミクスとヒトラーの関係ではない。あの2人は似て同じなのだから。  長い間この仕事をしていると、医学の正論だけでは測れない事実を見つけることが出来る。専門家に言えば馬鹿にされそうなことだが、現実には多くの人の役に立てる。学術的には未熟でも、市井の人が健康を取り戻せばいい。命に関わることはお医者さんに任せ、日常を楽しく過ごすことが出来るお手伝いが薬局レベルだ。腐敗した腸を持った腐敗した人間が増殖しているのをひしひしと感じる今日この頃、熟成した心の持ち主と出来るだけ多く出会いたいものだ。