接点

 2年間市民病院の処方箋を受けて、親しみを覚えた先生がおられる。2つ理由があって、処方箋に漢方薬がしばしば登場することと、僕が卒業した大学のことをよく知っておられて、とても評価してくださったことだ。ただどちらにもそれなりの問題があって、期待に沿うことは出来なかった。  まず漢方薬について。病院の方針があって、先生が使えるのは〇〇〇の漢方薬だけだった。日本中の病院で圧倒的なシェアを誇る会社だから無理はない。他の会社のを使いたくても使えないのだ。そんなことを知ったのは、僕が出席していた他の会社の勉強会に先生も出席していたってことを後から聞いたからだ。先生もその会社の製品を使いたいのだなと感じた。公立の病院だからなかなか個人の意見を通すのは難しいのだろう。先生が時々出張先で買ってくれたお土産をのぞけてくれたので、どんなメーカーのものでも処方箋で書かれたら手に入れます。煎じ薬でも作りますと訴えたが、それはかなわなかった。先生も歯がゆかったかもしれないが、僕も効く確率が低いあの会社の漢方薬を調剤するのは、気が重たかった。  もう一つは、先生は僕が行った大学の街の出身で、あの大学は当時、とても難しかったでしょうといって、僕を評価してくれたのだ。それはとてもありがたいが、実は後ろめたさで隠れたいくらいだった。大学の評価と僕の評価は全く関連がないのだ。何度も書いて白状しているが、教室にいるよりパチンコ台の前に腰掛けていた時間のほうが数倍長かったのだから、何も大学で学んでいないのと同じことなのだ。極端に優秀なグループと、まあまあのグループと、極端に落ちこぼれているグループがあったが、当然僕は最後のグループだった。恥ずかしいくらいの青春を送っていたのだ。一度ゆっくりお話ししたいと声を掛けてくれたが、僕の実際を知ったら、落胆されただろう。  僕より一回り以上年上なのに、穏やかな表情で権威を見えないように包み、患者さんの信頼を得ていた。あの年齢まで勤務医として働くことが出来るんだと、少しばかりの勇気と励ましを頂いた。あの街で育った方と、あの街で落ちこぼれた人間の面白いつかの間の接点だった。