結託

 ある方に電話で相談を受けた。長年苦しめられているトラブルの相談。僕は今までどんな治療をしたか尋ねることはめったにしない。現在飲んでいる薬は併用注意のために必ず尋ねるが、過去のものは聞かない。それまでの治療が効かなかったから僕に接触してくれたのだし、先入観を持ちたくないからだ。白紙で臨むことをいつも心がけている。僕みたいな田舎の薬局に漢方薬を依頼してくれる人は、ありとあらゆるところで効果が無かった人たちがほとんどだから、全く新しい発想をしなければ期待に応えることはできない。依頼されたときには最大公約数の選択肢は既に除外されているって感じだ。自分の経験を唯一の武器にするしかない。  と言うようなわけで、この方は僕が尋ねたのではない。自分で「〇〇湯を病院で出してもらってずっと飲んでいるんですが、全く効果が無くて苦しんです」と言った。病院でもらっている漢方薬のメーカーを尋ねたらかの有名な〇〇〇だった。あの会社は日本で使われている漢方薬の圧倒的なシェアを誇っているが、僕は使ったことがない。僕が若いときに漢方の研究会に入れてもらうときに唯一出された条件が〇〇〇の漢方薬を使わないことだったので、かたくなに守っている。電話の主が教えてくれた処方はどう見ても正しい。僕が考えてもその処方しか思い浮かばない。だから僕は、効かなかったという同じ処方を送った。ただし製薬会社は日本のではなく台湾のものだ。台湾の漢方薬はとても濃くて、エキス製剤でも煎じ薬に如何に効果を近づけるかで努力している。すると漢方薬が届いた翌日の夕方には効果が出て、今までの苦痛が何だったのかと思うくらい苦痛から解放されたらしい。  あっという間に押しも押されぬ漢方の製薬企業になったあの会社も、製品自体はしれている。政治力に長けていたのか知らないが、いい目をしすぎではないかと僕は思っている。限りある資源の錬金術師だと思っている。それに乗らされている医療人たちが僕には残念で仕方ない。何処の世界でも同じようなことが起きているのだろうな。庶民には絆とやらを押し付け、自分らは似ても似つかぬ結託で暴利をむさぼる。