広島

 何じゃこりゃあ!僕は遡上している鮎みたいなものだった。こんな光景は見たことがなかったから、なるほどこれが熱狂的なファンと言われる広島の人たちかと思った。  珍しく午前中に漢方の研究会が広島であったので、1時前に帰岡すべく広島駅に徒歩で向かった。駅に近づいたところで、前方からまるで美空ひばりのように、いや間違った、川の流れのように人々が押し寄せてきた。僕と同じ方向に歩いている人はほんの少数だから、川の流れに逆らって上流を目指して懸命に泳いでいる鮎みたいなものだ。いやそんなに血統書つきではないから、鮎もどきみたいなものだ。押し寄せる人の多くは、老若男女、赤いTシャツを着て、手にはボーリングのピンをひっくり返したようなものを2本持っている。恐らくあれを叩きながら声援を送るのだろうが、待ちきれなくて歩きながら叩いている人もいた。手には買い物のビニール袋をぶら下げた人も多くいて、おやつか弁当か飲み物が入っているのだろう。道には駅まで店が並んでいて、それこそ弁当かおやつか応援グッズか分からないが売られていた。なるほどこれだけの人が大移動するのだから経済効果は大きいだろうなと感心した。それにしてももう分からないくらいの回数、広島を勉強会で訪ねているが、こうした光景に遭遇したことはない。これは勘だが、行きがけの新幹線が広島駅に滑り込む頃南側に球場が見えた。ひょっとしたらあれが新しい広島球場なのかもしれない。もしそうなら広島駅に隣接していることになるからこうした光景とはしばしばバッティングするかもしれない。  天気予報が外れたのか今日は日差しが強かった。熱を地表に降り注ぐ太陽の下、いかにも健全が川の流れを作っていた。その中で僕はまるで逆流性食道炎のように、流れに逆らっていた。昔から僕は流れに逆らうほうをなぜか選択してしまう。強いものになんとなく違和感を覚えるので常に亜流だった。判官びいきなど死語になってしまったこの国で、胃袋から重力に逆らって胃酸を吹き上げるつわものは出ないのだろうか。みんなみんなテレサテンになってしまったのだろうか。川の流れに身を任せ・・・・・