残念

 思わず僕はその女性に、今喋ってくれたことを文章にしてと頼んだ。そのくらい彼女が教えてくれたいきさつは、生々しくて説得力があり、かつ面白くて当事者でないと浮かばない単語も豊富に出てきた。思い出しながら書けるものではないから、残念のほうが勝っている。  この女性は、いったいどういう関係が一番適するのだろうと思うことがある。現実どおり薬剤師と患者さんの関係がいいのか、親子の関係がいいのか、兄弟姉妹の関係がいいのか、夫婦がいいのか、嫁と舅がいいのか、おじと姪がいいのか、夫婦がいいのか、恋人がいいのか・・・・答えは今のままが一番いいのだろう。一番よいから僕は心地よく、彼女の役に立ちたくて懸命に知恵を絞っているのだと思う。  もう長い間色々な体調の困りごとで来てくれているが、さすがにこのトラブルはかなり親しくなるまで言えなかったのだろう。と言うか、そのトラブルが漢方薬で治るとか、僕が多くの患者さんを世話しているのを知らなかったのかもしれない。でも、さすがに新しい職場で不都合が極まったから思い切って相談してくれた。いつも底抜けに明るくよくお喋りする女性だから、まさかと思ったが、過敏性腸症候群の方は意外とそんな人が多い。いい人だから頑張りすぎて、むきになって頑張りすぎて、自分の体を犠牲にする人だから、さもありなんと思った。よくよく考えれば腑に落ちるのだ。  一日何十人のお客さんと応対するのか分からない職場で、ガスが多く発生し、お腹が張り、それが逆流し、又度々便意にも襲われるのは辛いだろう。仕事中も実は、心はいつもお腹やお尻に向かっている。頑張りやだからそんな体調は歯がゆかったと思う。でも頑張れば頑張るほど症状は悪化するのだ。  ただ、いざ治療を始めれば今まで築いてきた関係がものを言う。僕は彼女の多くを知っているし、彼女はもう隠すこともないから天性のお喋り術で症状を的確に教えてくれる。その挙句が、僕の残念を演出した。  覚えていないのが残念だが、記憶では「すごく調子がよくて、過敏性腸症候群のガス型だったことを忘れるくらい」「もう漢方薬を飲み忘れそうになる」「なんだろう今までは、今日も何もなく終わりすごいなあ」「生活がガラッと変わる」「何でも食べられる、食べものをいちいち気にしなくていい」「お腹が不快でも出せば終了」などと教えてくれた。ただ今でも残念だ。彼女の喜びようを、文章で表すことは難しく、録音か、いやいや動画で見てもらうのが一番だと思うから。繊細なくせになぜか明るい機関銃のような会話は、ユーチューブで100万回くらい再生されそうだ。タイトルは「ガス型治してみた!」