落胆

僕の気持ちを萎えさせないで。  関西から時々やってきてくれる家族の影響で、僕も大道芸が好きになった。3年前に福山のバラ祭りの中で行われる大道芸大会を見てから、わざわざ訪ねて行きたい位好きになった。大道芸の魅力は勿論だが、花大好き人間のかの国の女性達を連れて行かない手はない。そこで福山はどうせ駐車場が空いていないだろうから3駅手前の笠岡駅まで車で行って、そこから山陽本線で福山に向かうことにした。わずか10分電車に乗るだけで着く。  僕の若き友人たちは子持ちもいるのだが、概して天真爛漫だ。笠岡駅のホームでも大きな声で話す。僕は悪いことではないから、と言うより彼女達がなんら臆していないことが嬉しいのだが、注意することはしない。ある1人の青年が、スマホに夢中になっていたが、騒がしかったのか「中国人か!」と捨て台詞を残してその場所を離れた。その言葉は彼女達も分かるので「オトウサン コワイ」と口々に言った。本当に怖かったのは、彼女達ではなく、その青年だったのではないかと思う。今の日本人がようやく気がつき始めたことを彼は口に出しただけなのだと思う。ただ相手は中国人ではなかったが。  彼が感じていることと同じような気持ちに実は僕もなりかけた。ただ相手は中国人ではなく今僕と一番親しいかの国の人たちに対してだ。牛窓工場の女性たちは別としてと自信を持って付け加えるが。  笠岡駅の次の駅は大門?とか言う広島県の駅だ。そこからたくさんのかの国の青年達が乗ってきた。僕ももうだいたいかの国の人間は見ただけで分かるようになったが。僕の友人達がはっきりと教えてくれた。ただ、その風貌や態度は僕が今まで接してきたかの国の青年達とは全く違った。男も、茶髪に後頭部にかけたサングラスにイヤリングに、まるで日本の低級な若者のコピーみたいなのばっかりだった。その似合わさなさが余計低級を強調していた。女性達もしかりだ。同じ国のよしみで、牛窓の女性達と会話でも始まるのかと思っていたら、牛窓の女性たちは完全に無視した。福山は3年前に訪ねて、異常にかの国の人間が多いことに気がついていたが、今日はその何倍も密度を増しているように感じた。下手をすると、ある空間をもぎ取ってみると、他国の人間のほうが多いのではないかと言うようなところもあった。どんな仕事を押し付けているのか知らないが、犯罪率が一番高い国の人間がもっと分母を大きくしたら、とんでもない住みにくい国にこの国も変わるだろうと思った。結局企業が金欲しさに、低賃金労働者を輸入して秩序を破壊しているのだ。どこの国でも同じだが、自国を食い物にするのは経営者達、そしてその手先の政治屋だ。決して外国ではない。  何があったのか、かの国の友人達が勤めている会社が規則を厳格にした。僕はとてもいいことだと思う。牛窓工場の友人たちはもう何代にも渡って親密にしているが、本当にルールをよく守り禁欲的に暮らしている。そのおかげで僕も特別許可をもらえて、この国の文化や人柄を学んだり感じてもらったりするお手伝いが出来るのだが、それこそ価値ある彼女達の自制だ。恐らく他の工場のとばっちりを受けたのだろうが、もともと厳密に規則を守っている彼女達には影響はない。今までどおりでいいのだから。今日も福山に行くことを許してくれているし、再来週は、メンバーを変えて久世町の和太鼓を聴きに行く予定だ。神庭の滝と言う有名な滝もあるらしいから少し足を伸ばしてみようと思っている。僕は岐阜に住んでいたから養老の滝は見たことがあるが、それ以外は見たことがない。同行するかの国の若き友人たちは滝なるものを見たことがないらしい。和太鼓に滝、まずまずの内容だと自負している。  去年の暮れに来日した3人を加えて、かの国の青年が17人になったから、表を作って、誰がいつ何処に行ったかつけている。そうして公平に3年間のうちに色々な知識や思い出を作って帰ってもらうことにした。牛窓工場の友人達、今までどおりよく働き、よく喋り、よく規律を守って、僕を落胆させないで。