無力感

 いったい何があったのだろう。3年間異国で懸命に働いて、恐らく国に持って帰れば十分な生活費を稼いで帰って行ったのに。帰国すればすぐに結婚すると聞いていた。そしてその通りだったのだが、その後は音信がなかった。帰国前に田舎で暮らすと言っていたから恐らく農業を夫婦でしているのだろう。ただ、彼女達の多くがもともと農家の人で経験は豊富だからそれはそれで自然な選択だろう。だから幸せに暮らしていると思っていた。  数日前、妻のフェイスブックにその女性から入院しているとの連絡があった。日本語が書けない彼女達と妻がどうして連絡を取り合っているのか知らないが、恐らくローマ字なのだろう。限られた語彙の中で、何の病気か尋ねた妻に、日本語が分からないから答えることが出来ないと返事があった。  その話を聞いていて、少し違和感があったので、かの国の女性の寮に行って尋ねてみた。すると言い渋りながらも本当のことを教えてくれた。その女性はガンを発病したらしい。だから言い渋ったのだ。恐らく帰国してまだ2年は経っていないと思うのだが、その間に3度流産をして、ついにガンになったらしい。僕はかの国の医療のレベルを知らないから、かなり不安になった。この国の水準にしても難しいのだから、かの国ではなおさらだ。  しかし、あの若さで、又病気知らずでどうしてガンになったのだろう。かの国の北部の有名な街の近郊の出身だから、どうしても僕などはベトナム戦争当時の枯葉剤の影響などを考えてしまう。遺伝子のレベルまで傷ついているのではないかと思う。3世代にわたって、遺伝子の傷は受け継がれてるのではと思ったりする。病床で遠い国にいる僕たちを思い出してくれたことには感謝するが、何もして上げれない無力感に襲われている。帰国当日に薬局にお別れの挨拶に来てくれて、涙を流してくれた。幸せになるべき人だった。田舎の純情をまとったような人だった。