舞台裏

 2階のキッチンで何気なくテレビを見ていたら、コマーシャルで僕がおっかけをしている備中温羅太鼓の姿が一瞬映し出された。何事かと思ったら、梅祭りに出演するということだった。バックの映像に使われていたから、コマーシャルは梅祭りの告知だったのだが、太鼓に目がない僕にとっては、バックの映像のほうが主役だった。  早速2階から駆け下りて、キーワードになるような単語をインターネットで探してみた。するとすぐに備前焼の窯元で梅祭りが開催され、余興に和太鼓の数チームが招かれていることがわかった。画像では前に大きな池があり、梅ノ木が広範囲に植えられていた。備前に梅林と呼ばれるようなところがあり、それが個人の持ち物となればたいしたものだ。もしオーナーが和太鼓が好きで招いているとしたらもう尊敬ものだ。  こんなチャンスを逃す手はないとばかりに、今夜かの国の青年達の寮に行って、「日曜日に梅を見に行こう」と誘った。すると通訳は、「私は用事があるからいけない」と言葉が分かる分すぐに反応した。するとその様子を見ていた一人が「ワタシ イキタイ」と手を上げた。来日して丸2年になるから、理解力はある。そしてその女性がかの国の言葉で大きな声を出して何か喋った。すると広い寮の中で、各々用事をしているメンバーから、いっせいに大きな声が上がった。用事を伝えに来るのではなく、その場を動かずに声を出すから、結構迫力があった。そして一人が紙とペンを持って立ち上がると、1分もしないうちに、梅祭りに行く人間の名前を書いていた。僕は私情を挟むようなことがあってはいけないので、いつも計画を示すだけで、メンバーを選ぶのには立ち会わない。だから今夜のような、早い者勝ちと言うか、強気がちと言うか、余り好きではない光景を見て少し考えさせられた。しかし彼女達が決めたことを翻すことは出来ないから、何も言わずに紙を受け取ったが、何か釈然としないものがあった。どう見ても僕の企画に参加する回数が少ない人が数人いたが、こうした理由からなのだろうかと勘ぐってみざるをえない。公平とか平等とかが気になるタイプの僕にとっては、見なければよかった光景かもしれない。舞台裏は所詮舞台裏で、美しくはないのだ。僕がいるべきは客席だと悟った夜だった。