普通

 「この前、コンビニに行ってきました」たったそれだけでも、彼にとっても僕にとっても大変な成果なのだ。  決して病気は見つからないのに、いくつもの不調に体中が覆われたら、何もする気にはならないだろう。まして現代医療の恩恵から取り残されてでもしたら、もう立ち直れない。医療だけではなく社会的な関係も八方塞になる。そんな環境の中で暮らす青年は多い。  彼もその中の一人だ。彼にとっては外の世界は恐怖だ。そんな彼が希望の第一歩にでもなりそうな変化を自ら感じ行動できたことは、失われた歳月を取り戻す一歩でもある。今日彼が、体調とは関係ない人正論みたいなことを口にした。この変化も大きい。体調を克服することに必死で、そのほかのことに想いが至らないことは世の常だろうが、そこに一筋の光明がさしたとしたら、それもまた大きな希望だ。何かが変わる、彼は自分でそれに気がついた。苦痛だった体調が軽くなるにしたがって「普通に近づいている」と言った。悩み多き普通の青年が普通を意識しなければならない理不尽に、現代社会の病巣を見るが、そしてそれはますます深まりつつあるが、田舎の薬剤師の生きてきた証が少しでも役に立てれば嬉しい。  「早くイオンモールに行って現場報告をして。僕も行っていないんだから」こんなたわいもない電話での会話で明日が開ける。