おえん

年末におばあさんとお母さんが過敏性腸症候群の相談に来た。最初は僕の薬局を半信半疑で「過敏性腸症候群と診断を受けて治療しているのですが、そういった病気を御存知ですか?」と尋ねられた。色々努力をしていたみたいだから、行き着いたところがこんな田舎では、そんな疑問を持つのも当然だと思う。ただ二人が症状を説明し始めてすぐ「本当に困っているのは、自分の意思に反しておならが漏れてしまう症状ではないの?」と切り出すと、二人が驚いた。学校に行く前に腹痛がし、おならがお腹にたまりパンパンになり息苦しい、いつも肛門に違和感を感じる、げっぷを無理やり出し続ける、口の中に唾がたまる等と色々症状を教えてくれたが、肝心の症状は二人とも理解できなくて、それだからこそ不憫で、又医療機関でその訴えを無視されたこと、又恥ずかしいことなどで、僕に言うのをためらったのかもしれない。ただ僕は二人の深刻な表情で恐らくその問題が一番だろうと気がついた。案の定、電車の中で乗客が騒がしく、「臭い」などといわれると教えてくれた。とても勉強が好きで学校にも行きたいのだけれど、休みがちになっているらしい。 相談に来たのがまさに12月の31日で、冬休みからのスタートだった。だから2週間でかなり症状が軽減しても、休みだからと評価は低かった。ところが学校が始まっても症状が和らいだままで、2回目からはお嬢さんもやって来る様になった。家が遠いので閉店時間を過ぎてしまうが、本人と直接話し合えるのは僕にとっては価値がある。直接情報が相手の顔や態度を見ながらもらえるのは大きな武器となる。逆に彼女にとっても僕の経験を聞くことは大きな支えにもなるはずだ。こんな田舎の薬局が自分と同じような過敏性腸症候群の人を900人以上お世話してきたことに驚いていたから。遠路訪ねて来てくれたお嬢さんを見て、青年の能力がこんなことで花開くのを疎外されるのは「もったいない」と感じた。症状について本人から直接聞くことができたし、助言もできたから明らかに治癒のスピードは上がったと思う。  昨夜遅くお母さんが漢方薬をとりに来たが、その前に電話でお嬢さんと話した内容によると、肛門の違和感が残っているだけで後は全部解決して学校も一日も休んでいないらしい。肛門の違和感は、煎じ薬が飛び飛びでしか飲めていないからだと教えると又まじめに飲むと言っていた。(煎じ薬のほうに肛門の薬は期待していたから、僕にとっては当然なのだ)あれだけ苦しんでいたお嬢さんが、僕の漢方薬を飲み始めて40日くらいでほぼ完治に近づいたことをお母さんがとても喜んで御礼を言ってくれた。そんなお母さんに僕が言った言葉は「田舎の薬局を馬鹿にしたらおえんよ(いけないよ)」