戦士

 インドネシアでは養殖業者が景気がいいらしいが、稚魚をとるにわか漁師が横行して乱獲され、ここでも稚魚の保護が問題になり始めている。食事の前の挨拶の「頂きます」は、命を頂きますと言う意味だと、随分前に永六輔が解説しているのをなぜか強烈に覚えている。仏教的な発想なのだろうが、僕はいたく感動した。その頂きますが現代の日本人には「根こそぎ頂きます」になってしまったように見受けられる。どんなにうなぎが美味しくても、それ以外の選択肢は一杯あるのに、何故そこまでこだわるのか分からない。マグロだってそうだ。福島のあとほとんど魚を口にすることが無くなった僕にとって、あのこだわりは想像を絶する。食物連鎖で恐らく最後のほうに属するだろうあの魚を、よりによって絶滅まで追いやろうとする「食い気」に驚かされる。  うなぎにしたって、マグロにしたって、1年に1度くらいしか口にしなかった人間にとっては、どうでもいい話で、折角この世に現れた種を人間様が絶滅させる権利はない様に思う。かつてアジアの人たちの資源を頂きますと言って出て行き、多くの命も頂いたこの国の人間に本当に反省の気持ちがあるのなら、インドネシアのうなぎくらい手を出さない決断はできないものか。いやできるわけはないだろうな。  今年も牛窓には漁業関係の仕事をしにある国の人たちが働きに来ている。彼らは良く働くらしいが「マネー、マネー」と口癖のように言う。でも彼らのマネーは可愛いものだ。魚のにおいをさせ、汚れた服を着て日本人労働者の半分にも満たないお金で働く。インドネシアにうなぎを買いに行くこの国の人はどうだろう。ジェット機から降り立ち、高級車に乗り、身だしなみは整い、決してマネーなどとは口に出さない上品で優秀な人たちだろう。彼らは小金など見向きもしない。一網打尽の大金だ。金になるなら何でも「根こそぎ頂きます」の戦士たちだ。