副交感神経

 僕らが子供のときに習った教科書に出ているくらいだから、今さら児島湾干拓なんてのを意識する人は少ないかもしれない。しかし、今日の和太鼓のコンサートは「児島湾干拓和太鼓フェスティバル」と銘打つくらいだから、いやでも見渡す限りの平野や稲の香りが、かつての干拓事業を想像させる。それが世の役にたったのか、あるいは大きな物を失ったのか分からないが、少なくともそのことを共通の絆で集った5つの和太鼓チームの演奏を聴けたのは事実だ。よくもこの干拓地にそれだけのチームが出来たものだと関心したというか不思議な感覚だった。そして500円の入場料がとても安く感じるくらいどのチームも、練習を重ねていた。そして次世代を担う子供チームがほとんどのチームにあるのだが、その子供チームが今まで聴いた中ではもっとも力があったように思う。正確なリズムを誰もが刻めていたし、大きな音も出ていた。  いつからどのチームが始めたのか分からないが、和太鼓をやっている人たちの演奏後の挨拶がとても気持ちが良い。整列して大きな声で「ありがとうございます」と挨拶するのが定番だが、それをしないチームを見たことがない。体育会系みたいに、やらされている感じではない。会場まで足を運んでくれて、演奏を聴いてくれてありがとうと素直に言ってもらえているように感じる。本当はこちらこそ「素敵な演奏を聞かせていただいてありがとう」なのだが、なぜか演奏者のほうが頭が低い。日本らしくて、思わずこの国が好きになる一瞬だ。  演奏が終わって、というより最後の演奏は出演者全員が玄関入り口から外にまで人で通路を作り、太鼓の音を間近に聞きながら観客が二列で出て行く。心憎い演出で最後まで楽しむことが出来た。  最近、交感神経バリバリの緊張状態で、体が弾力を失い筋肉が硬直しているのが自分でもよくわかっていた。結構日常が辛かった。早く仕事を終えて眠りたいと思うことが多かった。今日の和太鼓でどのくらい気持ちがほぐれたのか分からないが、出て来い副交感神経。