誤診

 「11月の勉強会には行きますけんね」と電話で言われて僕は大声で笑った。わずか2週間前に、あるガンが発見されて入院していた人がなんて意欲なんだろう・・・と思いきや、ガンが消えていたと言うのだ。2週間で消えると言うことは、いわゆる誤診なのだろうが、こんな誤診なら許すことが出来る。吉本新喜劇でもかなわないギャグだ。思えば他人の幸運をこんなに心から喜んだことはない。その方の人格ゆえだろう。  漢方の研究会のメンバーを代表して見舞いに行かなければならなかったのに台風で行けなかった。お金を下ろして熨斗袋に入れて準備万端だったのだが、それが必要なくなった。「先生、もう見舞いには行かないよ。下ろしたお金もまた通帳に入れるよ」と正直に言った。「それはもうあなた、来ていただかなくて結構ですわよ」岡山弁にはない独特の抑揚で、いつもの会話が出来る。  昨日とまったく同じ体だったはずが、今日はがん患者になり、2週間後、同じ体だったはずなのに健康体に戻る。まるで人の健康が、本人の自覚とは無関係に検査値によって支配されているようだ。病気になるのではなく、検査値で異常になり、病気が治るのではなく、検査値が正常な範囲に収まることが回復と言うのかもしれない。  とんだ騒動だったが、結果が最高だったから、なんら不快感はない。当事者でさえなんらうらみを感じていないのだから、僕が笑い転げたのも許されるだろう。