置き去り

 「なんとか心がつぶれないように頑張っています」電話を置く前にその女性は笑いながらそう言った。人はそうした時にも笑えるのだ。すごい動物だなと思うことがある。  僕が出来ることは漢方薬で体調と心調を改善すること。それだけだ。ただいくらそれを高度に実現できても、根本解決には程遠いこともしばしばだ。特に最近そういったケースが増えているような気がする。僕に多くの時間があり、僕に多くの財があり、僕に多くの権力があり、僕に多くの優しさがあり、僕に多くのネットワークがあり、僕に多くの謙遜があって初めて役に立てることが多い。ただ残念なことに、凡人にそんなものが備わっているわけがない。歯がゆさの中で、薬を作り持って帰ってもらったり、送る・・・そこまで。  アホノミクスは置き去りにすることをいとわない集団だ。置き去りにされることが見え見えだった人たちは選挙に行ったりしないから、案の定、何週も遅れてグラウンドを走らされている。やがて息が切れて走ることすら出来なくなるだろう。最後の砦の家庭でさえ、息絶え絶えの関係性の中で何の力も発揮できない。共倒れになるのが落ちだ。それを避けようとすれば犯罪者になってしまう。  おもしろいなあ、この時代に天守閣から自嘲の海で溺れそうな人々を見下ろしているやつらがいる。