尊敬

 例の薬剤師さんにモコの漢方薬を作ってもらってから、モコの人が変わった。いや、犬が変わった。  あれだけ外に出ることが好きだったのに、この数ヶ月、戸をあけても後ずさりする。時に無関心も装う。トイレに行きたい時間帯でも、喜びもしない。従来なら、促すように戸に向かってジャンプを繰り返すのだが、物陰に隠れようとしたりする。僕は勝手に老化とか、戸外が暑いからとかの理由で済まして、特別の配慮をしてやらなかった。所詮犬に関して素人なのだ。  ところが漢方薬を作ってもらい飲まし始めてからは、以前のように外に出ることを催促するし、戸をあけてやると、誇らしげに尻尾を左右に大きく振りながら、お決まりの道を歩き始める。跳ねるように歩くから、足取りがいかにも軽い。こんなに違うものかと驚きもし、反省もし、勉強もした。無知な飼い主で申し訳ないような気持ちにもなる。それに引き換え、さすがボランティアで磨いた感性は圧巻だ。商売ではなく、ただひたすら目の前で体も心も傷ついた犬たちを救うことに没頭してきた挙句に付いた知識や知恵なのだろう。いや、まったく経済を度外視して活動している人たちだから、信念が犬たちを救っているように見えたりもする。  早く、犬専門の漢方薬を作るホームページを立ち上げればいいのにと思うが、なにせ、行方不明犬の捜索などが忙しく、パソコンの前に腰掛けてばかりはおれないらしい。人それぞれでいいし、人それぞれがいいし、人それぞれだからこそいい。個性に寛容な時代に少しずつ変わってきた。そして凡人には理解しがたい感性を、少しずつ尊敬出来るように変わってきた。