急ぎ足

 便利になったものだと感心するが、それを使いこなす人たちもまたすごいとアナログ人間は思う。  祭日の朝、手持ち無沙汰だったので、薬局に下りて業界紙を読んでいた。そこに電話がかかって、薬を分けてほしいと言うことだった。シャッターを下ろしていたので、何時ごろ来る事が出来るかと尋ねたら、薬局の前の駐車場にすでにいますとのことだった。そこですぐにシャッターを開けて招き入れた。  お母さんと中学生の息子さんが入ってきた。面識はなかった。お子さんが昨夜から風邪ぎみで体調が悪いからどうにかしてほしいと言う依頼だった。別段難しいことではないから簡単に済ませたのだが、お母さんが「ありがとうございます。旅行中だったので助かりました」と礼を言ってくれた。何気なく聞き流す程度の言葉だったが、僕には耳に残った言葉があった。  旅行中?他所の人が急にお子さんの体調が悪くなりどうして僕の薬局の電話番号を知っているのだろうと不思議に思った。そのことをお母さんに尋ねると「牛窓町の薬局」と言うキーワードで検索したら、ヤマト薬局の電話番号と地図が出てきたと言うことだった。僕らの時代なら、町の人を見つけて尋ねることが当たり前の光景だっただろう。だから下手な説明にでも当たれば大変だった。それこそ、いとも簡単に薬局のシャッターを開けさせることができる機械を使いこなせれる人間に、急ぎ足の時間の流れを感じた。