草抜き

 終わった跡を見て、ビフォーアフターで写真を撮っておけばよかったと悔やんだ。こんなに違うものかと感心した。それも都会の若者で、草抜きなどしたこともなかっただろうに。  昨日から泊まっている青年が朝「何か手伝うことはないですか?」と言ってくれたので、僕は迷わず駐車場の草抜きをお願いした。駐車場の真ん中に花壇を作ったのはいいが、花よりも団子、草ばかりが生えて手の施しようがなくなっていた。毎朝少しずつ抜くのだが、その何倍も新たに生えてくる。見かねた僕の友人が抜いてあげようかと最近言ってくれたばかりだ。ただ僕の友人がやってくれるのはありがたいが、お礼のお金を取ってくれないから、ジャズのコンサートに一緒に行くことでお礼としている。ところが調べても近いうちに県内でコンサートはない。だから草ボウボウを諦めていたのだが、朝の彼の申し出にすかさずお願いした。  ただ、結構広い範囲に、かなりの背丈まで成長しているから、並大抵のことでないのは想像していた。まして都会の子だからすぐ音を上げるのではないかと思っていた。ところが炎天下で3時間作業を続けた。途中で姪や妻が心配して覗きに行った位だ。ところが疲労の色も見せずにその後休憩も取らずに結局4時間続けて作業をした。そしてその結果が想像以上で、僕の友人、今は草抜きのセミプロみたいな人だが、にも負けないくらいの出来栄えだった。こんなに見晴らしがいいのかと思うくらい背後の中学校のテニスコートが見える。おまけに、畑の前列に何の花かわからないが咲き誇っていた。今までは草でまったく見えなかった。けなげに、草に囲まれて咲いていたんだとちょっと感動した。  聞けば彼は牛窓に来る前に、16日かけて北海道を自転車で回ったらしい。舞鶴からフェリーで北海道に渡り、その後は自転車だ。そんな体力の持ち主だから4時間の草抜きなどなんともないみたいだ。かつて過敏性腸症候群で人目を避けて暮らしていたなど誰も信じられないかもしれない。昨夜僕とかの国の女性たち(12人で暮らしている)を訪ねて少しばかり話をした。今は帰ってしまったが、2年前に4人のかの国の女性たちが彼を孤独から解放しようとして一緒に四国に小さな旅をしてくれた。彼が人に対して警戒心を解くきっかけの旅だったと思う。それを懐かしんでの訪問だったが、もう気後れする彼はいない。  今も多くの過敏性腸症候群の方をお世話しているが、こうした彼とのような出会いが僕にもあるから「のめりこめる」のだと思う。