父親

 意気揚々と・・・残念ながら不安感をぬぐえないまま出て行った。今頃、新幹線から地下鉄に上手く乗り換えられただろうか、もうホテルに着いて荷物を預けられただろうか、もうホテルを出発して京セラドームに着いただろうか、グッズは買えただろうか、まるで僕の子供たちが幼い時にディズニーランドに出かけたのを見送った時の再現をしているかのようだ。  丁度今、奥さんが買い物に来て、無事着いたこと。席が舞台にすごく近くて幸運だったこと。兄弟グループも集結して喜びが倍増している・・・・などと教えてくれた。1枚12000円のチケットを親子分、新幹線代2人分で2万円、ホテル代2人分で2万円、僕へのお土産代が、出来れば2000円以上。合計すると7万円かけて、まったく似合わないお父さんが、大ファンらしいお嬢さんを連れて観に行った。「自分は京セラドームの外で待っていたら、一緒に入っていったら恥ずかしいじゃろう」と助言したのだがどうしているだろう。  海の上なら誰にも負けない勇気と経験があっても、都会ではまるで去勢された犬みたいなものだ。ただお嬢さんを楽しませるため、お嬢さんを守るための一念発起はすばらしい。いいお父さんを演じている。まるで家族からの評価は低いが、客観的に見るとずいぶん良いお父さんだ。  山登りのザイルかと思ったら、歌ったり踊ったりするザイルらしい。もし2時間のコンサートだったら1時間6000円。と言うことは1分が100円の価値。1秒が1.6円。恐ろしくて、もったいなくて余所見も出来ない。けなげな父親は、今頃どうしているのだろう。