第一声

 第一声でかなり分かるのだけれど、今回は名前を言われているのに分からなかった。数ヶ月前なら1秒もかからずに分かったのだが。まあ、薬局で名前がすぐに出ないことはいいことだけれど。  話し方になんだか淀みがあった。僕はすぐ何かを迷っているなと思った。ただ当初相談を受けたガスが漏れているなんてレベルでないことは分かっている。彼女はどのように僕の漢方薬をきるか迷っているのだ。もうずいぶんとルーズになっていて、だからこそ、そろそろ必要ないだろうと本人も分かっていて、さて今日からゼロにしようかどうか迷っているのだ。そのことをぶつけてみるとまったくそのとおりだった。たとえば数日前にお腹がごろごろ鳴ったみたいだが、それは気温が低かったせいだと冷静に判断していた。誰にでも起こるごく普通の出来事だと言っていた。こうした判断は完治した人のものだ。もうすぐにでも止めていいのだ。  僕はこういった場合にはいつも「好きなようにして」と言う。ルールなどはなく、不真面目な飲み方でいいのだ。気持ちが強くなれば薬を完璧に飲むなんてことがあほらしくなる。薬を飲むことなど目標でもなんでもない。単なる一つの手段だ。薬はいずれ止める為に飲み始める。こんな単純な道理をみんな忘れている。  今日の女性も半月分が1か月分になり、いずれは2か月分になり、半年分になり完治する。ほぼ不条理なトラブルから解放された今、何倍も失った生活を取り返して欲しい。