手抜き

 まあよくしゃべる。手も動いているから別にかまわないし、いやな話でもないから別にかまわないが、それでもよくしゃべる。黙々と作業をする薬剤師からは到底考えられないが、職種によってこんなに違うのかと思う。もしこの職業で女性ばかりのチームだったらどれだけしゃべくるのか考えただけでも空恐ろしい。30年前に増築したときにも職人さん達の話し声を聞いたことがあるが、そのときと同じ経験をした。ただその時の話題は下品で聞くに堪えれなかったが、今日の職人さん達にはそれはなかった。もっともその話題の中心は、僕が親しくしている超お得意さんだから、その種の懸念はないが、職業によって仕事に対峙する姿勢がこんなに異なるものだと、改めて認識させられた。  トイレをお客さん用に新しくしようと言うことで依頼したのだが、壊しているときに彼が驚くように、又あきれるように言った。「これ見てごらん、ねじが無茶苦茶じゃあ、正式なねじではなくて寄せ集めて使とっるわ」確かに、4本のねじに3種類使われている。見えないところだから手を抜いたのだろうが、当時、仕事をしながら低俗な話題で盛り上がっていたのを思い出すとさもありなんと思う。家を建てるのは一生に一度だから、もう注文を受けることはないと思って手を抜くのかもしれないが、それは甘い。家を建てるのが複数回の可能性もあるし、リフォームの可能性もある。30年前の不快なことなど昨日の事のように覚えているから、客を失うことなど簡単だ。気取る必要はないが、最低限の品は保たなければ失うものは大きい。