仮眠

 連休明けの姪はやってくるなり「鹿児島まで行ってきた」と教えてくれた。彼女が行って来たと言うときは、ほぼ車でと言う言葉が省略されている。案の定車で行っている。そして彼女の場合は一人で運転すると言う意味も必ず含んでいる。まだお子さん達が免許を取っていないから、自ずと一人運転手と言うことになる。まだ話しの内容を聞く前から「死にそうだった」と何度も繰り返した。  西は広島くらいまでならかなり具体的に想像できるが、九州となるとほとんど具体的にはイメージ出来ない。実際に長崎と大分にしか行ったことがないから、それも望んで行ったのではなく単なる用事で行っただけだから、ほとんど記憶にない。いわば未知なる土地なのだ。ただ、遠い、用事がないというイメージが僕の中を占めていて、実際の距離よりもっと遠くに感じるのかもしれない。悪意ではなく、大なり小なりそうしたイメージはあるかもしれない。どうしても人の足は、この辺りだと東に向くから。  単純にしてそれですべてが推し量れそうだからありきたりの質問をまず最初にした。「どのくらい時間がかかるの?渋滞はないの?」この二つをクリアできれば僕でも何とかたどり着くことが出来そうだが、「17時間?途中休んだから18時間かな?」さすが度胸があるのだろう、慣れてもいるのだろう、自分が運転した時間を覚えていなかった。答えた数字も怪しいものだが、それでも僕の気持ちは一瞬にして萎えてしまって、クリアどころか考える余地もないことが分かった。  それにしてもあの色白でスリムと言う、過敏性腸症候群になってもいいような彼女がよく行けるものだと思う。今までもどこどこに行ってきたと聞かされるが、僕なら新幹線しか考えられないような土地の名前を挙げるから、よほど運転が上手で好きか、命知らずかだと思っていたが、さてどちらだろう。若さゆえか、好きゆえか、往復で言うと1日半運転をしてきたと言う事実が、休み明けに平然と仕事をしている姿からは想像できない。「よくもつねえ?」と呆れ顔で言う僕に「途中で仮眠しましたから」とさりげなくニコニコしながら答えた。同じことをしたら、僕なら永眠しそうだ。