庶民

 遂に正義が行われる。待ちに待っていたことだ。些細な罪は起訴され裁かれるが、大きな罪は捜査さえ受けないことがあの日以来分かった。平等とか公平とかはこの国にはないんだと、あの時以来確信していた。  具体的な数字は忘れたが、基準値の260万倍の値が出たらしい。本来出てはいけないものが出るのだから、基準値という言葉自体が怪しいが、それでも260万倍は凄すぎる。田舎の片側一車線道路をジェット機が飛んでいるいるようなものだ。捕まらないのがおかしい。そのおかしいことが2年以上堂々とまかり通っていた。それが遂に捜査を受けたのだから溜飲がやっと下がった・・・  だがテレビで捜査員が列をなして粛々と進んでいる映像の背景ががどうもおかしい。爆発で無惨な姿を呈しているはずなのに、大きな看板にきれいな工場。パイプも壊れた様子はなく、あれでは放射能も漏れまい。看板をよく見ると○○フードと書かれている。何これは原子力発電所ではなく、コロッケやピザやコーンフライを作るところ?だけどアナウンサーは260万倍と言っていたではないか。260万倍もの基準超過をするとあのように警察がすぐに調べにはいるのではないか。すると3年前に同じく何百万倍の毒を世界にまき散らした会社はどうなったのだ。たかだか数十人が被害にあったところが捜査を受け、世界中の人間の健康被害をもたらしたところが何のおとがめもなし。どう説明を付けるのだろう。パン一つ盗めば犯罪人。放射能で何年もかけてゆっくりと殺せば無実。レトルトなんか無縁の人間には嘔吐すら起こさせられない。  どんな事故でも事件でも、苦しむのは庶民ばかりなり。その制度を支えているのも又庶民ばかりなり。