ミカン狩り

 中学校の時、丸刈りはしたことがあるが、ミカン狩りなるものはこの歳になって初めてだ。ニュースなどで何々狩りというのを時々見かけるが、自分とは無縁のもので、興味の対象外だった。  ミカン園の持ち主がみんな高齢になって世話が出来ないと言うことで、義兄がミカン園の世話を頼まれたらしい。ところがあまりに広くて、今鈴なりのミカンすら摘むことが出来ないと言うことだ。そこで僕ら素人までSOSを発して、少しでもいいから摘んで欲しいと頼まれた。実をとっておかないと来年木が弱るらしいのだ。  実は、僕は柿刈りでもないのに渋々だったのだが、かの国の子達がノリノリだったのだ。僕の日本語を理解しているのか疑わしいくらいミカン狩りを楽しみにしていて、現地に着くまで心配だった。ところが、遠くから鈴なりのミカンを見つけた瞬間から全員がハイテンションになった。いつも控えめで、常に気を配ってあげないといけないような子までが、口数が一気に増え、かの国の言葉がミカン園を覆った。和太鼓も第九もドイツの森も須磨の水族館も、広島の原爆ドームも宮島も、四国フェリー栗林公園も、全て全て喜んでくれたが、それらに劣らず喜んでくれた。日々の管理から解き放たれるのに、人為のものより、こうした自然の中で身体を動かす方がより効果があるのではと気づかされた。  帰りの車の中で「オトウサン、ユキミタイ」と誰ともなく希望を言われた。北へ行くのは苦手だが、雪を見るなら入場料やチケットはいらないと一人ほくそ笑んだが、願わくばどうかこの冬、牛窓に雪が降って!